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第二回 建築家 隈研吾 Lively Life バックナンバー一覧
設計するときに重要なのは周囲との調和がとれること
Lively Life
隈研吾
part1
part2
part3

大都会の離れ座敷といってもいいだろう。閑静な住宅街が密やかに息づいていた。隈さんの自宅に伺う道すがら、そんな街のたたずまいに少なからず、驚かされた。ひっそり息をするように現われた小さな公園の前に透明なキューブが空に向かって伸びている。4階のリビングは、大きなガラスの箱のよう。手作りのスケルトンの家具たちとも調和して、このうえない居心地のよさを私たちに与えてくれる。
こんなに開けっ広げなのに、周囲の目を気にする必要がないなんて……。そんなひろびろとした開放感のある家に隈さんは住んでいる。

 
個人の名前で仕事を受ける建築家は、責任があるんだ
 

建築家に頼んで家を建てることを、なにかもうすごく大変な、敷居の高いことだと考えている人がいますが、むしろ大手の建築会社よりも怖くはないと思いますよ(笑)。

というのは、その建築家個人は、永遠にどこへも逃げられないからです。たとえば大きな建築会社に頼むと、担当者がいなくなってしまう場合だってある。担当者に電話をしても、彼は退社しましたとか部署が変わりましたと言われたりします。でも個人の名前でやっている建築家は、逃れようがないから、もし雨が漏ったらその人に連絡して、「漏っちゃったよ」と言えばいい。そういう意味で、アメリカの設計事務所は全部、個人の名前がついています。アメリカでは個人の名前がついていない設計事務所はないでしょうね。
たとえば日本設計とかアメリカ設計とかいう名前では設立できない。それは責任が明快でないからです。一人の仕事として責任を持って設計や建築の仕事を受けましょうという姿勢の現われなんですね。

 
 
依頼主のライフスタイルを知るために一緒に食事をしたりすることも重要
 

設計の依頼を受けたらまず最初は土地を見にいきます。土地の形を見るところから始まるんですね。そういうときに、一番重要な項目として見るのは、周りとの関係性です。隣に何が建っているか、将来は隣に何が建ちそうかといったことです。いまは小さいものが建っているけれど、隣に高いビルが建つ可能性のある土地だったら、そのときに何も見えなくなるかもしれない。そういう可能性も含めて、隣を見ます。あとは、風がどっちから吹いてきそうだとか、光のさす方向などです。

その次の段階では、頼んだ施主さんとの会話の中でいろいろ決まってきます。話す内容というのは、建築について話すこともあるけれど、そもそもその人がどういうライフスタイルを持っているか、生活をどう思っているかといったことを話します。それが一番重要なんです。建築とはそもそも何かとか、居間の広さをどのくらいにすべきかというところから議論しても仕方がなくて、もっと柔らかい、周りのことから議論していかないとお互いにわかり合えません。どういう食べ物屋さんが好きで、どういうものをよく食べに行っているか、いままで海外旅行は、どういうところに行ってどこが気に入ったか、そういう周りから話していくほうが、その人がどういう空間を求めているかがわかってきます。
つまり、ライフスタイルとか趣味志向を聞きながら、イメージをつくっていくことが大事なんです。

 
隈研吾
 
「水/ガラス」のこと
 
 

人によってそれにかかる時間が全然違います。たとえば『水/ガラス』という海のそばの建物の設計をやったときですが、最初に僕がまずスケッチを出し、それで全ての打合せが終わりでした。ああいう凝った建物の場合は、普通はすごく細かく打ち合わせをしたがる人が多いのですが、そのクライアントの場合はスケッチを見たら、あとは何も打ち合わせをしないで「好きにつくってよ」という感じでした。そういう人もいますし、週に1回とか場合によっては、もっと頻繁に会って何回も打ち合わせをして進めていくこともあるし、ケース・バイ・ケースです。

 
 

大事なのは、打ち合わせの場所が、いつもいわゆる会議室みたいなところではだめだということ。夜、一緒に食事をしたりしてお互いの柔らかい部分も含めてコミュニケーションをしないと絶対にいいものはできません。お医者さんでもきっと優秀なお医者さんというのは、人と人のつきあいの中でコミュニケーションができる人ではないでしょうか?会話が一番大事ですね。

 
「伊豆の風呂小屋」のこと
 
 

個人住宅の設計はとても少ないのですが、最初につくったのは『伊豆の風呂小屋』という別荘です。14年ぐらい前ですが、それはいまでもすごく思い出深い作品ですね。依頼主が温泉が好きで温泉付きの土地を買ったんです。その人がお風呂の脇で暮らすような生活がしたいと言うんです。お風呂が脇にあって、湯上がりにビールを飲んでごろごろしているような、お風呂の脱衣場が大きくなったみたいな家がほしいと言うのです。
初めて伊豆に土地を見に行ったときに、車の中にバスタオルがつっこんであって、「じゃ、お風呂に入りましょう」と言って、海辺にある公衆浴場の露天風呂にばーっと入りながら打ち合わせをした。そこで彼が本当に何を求めているかが、一発でわかりましたね。会議室で打合せをしていたのでは、そういう微妙な話は絶対に出てきません。一緒にお風呂に入りながら話すということが、すごくイメージをわき上がらせてくれました。
できあがりの家もそんなにお風呂だらけな家ではないけれど、すごく気持ちのいいお風呂のある家になりました。

 
 

ですから、家の設計を依頼するときには、その人が本当に何が好きかとか、何を求めているかということを正直に出したほうがいいと思うんです。何か決まって家はこうあらねばならないというものではなくて、もっと自由に楽しく発想していったほうがいいというのが、その最初の家、『伊豆の風呂小屋』をつくったときに自分も勉強したことです。
それは土地の大小に関係なく、そういう話をどんどんしていったほうがいいものが生まれますよね。

 
「亀老山展望台」のこと
 
 

自然の中に建造物をつくる時には、人工物で無理やりつくろうとしたらだめなんです。周りの自然の力を借りるというつもりにならないとだめです。そこを間違うと失敗する。基本的には建物より周りの自然のほうが、よっぽどきれいで気持ちがいいわけなんです。

 
 

たとえば、かなたに見えている海の景色をさえぎらないといっても、いろいろあるわけです。『亀老山展望台(愛媛県吉海町) 』でも最初は自然の中に、展望台という人工物を建てようと考えていたんです。でも、どんな人工物を置いてみても周りの山や緑には負けてしまう。だから逆に周りの緑を勝たせて、緑の中に建築が消えてしまっているように見えるというふうにしたんです。思いついたとたんに、「あっ、これだ」と決めましたね。それを思いつくまでに半年以上かかっているんです。あれは依頼主の自治体の方もびっくりしていた。

そうそう、こちらの企画に反発されるときもあります。そのときには、なぜ反発するのか話し合っているうちに、こんなことで反発しているのかということがいろいろわかってくることがあります。それは話し合わなければ、絶対に解決しない。こっちも最初出した案に固執するのではなくて、どんどん変わっていくわけです。この人がこう考えるのなら、この案のほうがいいのかもしれない、という風に。それがコラボレーションです。建築を設計するというのは、そういうことなんですよ。依頼主も何カ月も意見交換をやってきたのに、突然がらっと気が変わって「やっぱりこっちがいいと思いました」とか、ひどいのになると「敷地を変えました」とかいうのもあるんですよ(笑)。
(構成/文 メディアム 成田恵子)

 
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アフターショット
アフターショット

カメラマンの桐島ローランドとゲストの撮影の合間のおしゃべりを紹介します。

■桐島

(自分で撮ったポラロイド写真を渡しながら)どうですか?

■隈

やはり写真家はすごいですね。今後、永続的に僕の建てた建物は、桐島さんが責任を持って撮ってくれて、写真集をつくる。もう約束したんだものね。

■桐島

僕の写真でよければですよ……。そして、僕は隈さんに設計をお願いする。世の中そうやって昔みたいにまた物々交換の時代になっていかなければいけない(笑)。ただ、あまりにも僕の写真のほうが単価としては安いから、コストが釣り合うまでたいへんだよな。100年対1年とかぐらいかな……。家を建てるっていうのは楽しそうな作業ですね。よく3回建てないと満足できないと言いますが、本当にそうですか。

■隈

3回でも満足できないかもしれない。1つ建て終わったときに一番次の建物を建てたくなると思う。建ててから使ってみて、ここはこうすればよかったと、そのときに一番強く思うものだもの。

■桐島

だから、改築を続けてしまう。

■隈

しばらくたつとまた忘れてしまうのだけれど、できたときに一番、「ここのところをこうすればこうできる」とどんどん頭が回転するんです。それで癖になる人は、次々に家を建て続けるんですよ。

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