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第五回 アーティスト/アートディレクター/映像ディレクター タナカノリユキ氏 Lively Life バックナンバー一覧
いかにもできますって感じのデザインやインテリアはやらない 「ミニマムにちゃんとセンスよく」は、したくないんです
Lively Life
タナカノリユキ
part1
part2
part3

高級住宅街に突如現れる突起物のあるコンクリート打ちっぱなしの建物。これが、タナカノリユキさんの仕事場だ。外から見ただけでは、その構造はまったく不明。何件分の部屋が内蔵されているのか、想像もつかない。仕事場は、天井の高い吹き抜けと、床から悠に4メートルはあろうというガラス窓が特徴的な、開放感のある空間だ。その中に、自身の手によるソファや棚が雑然と、それでいて気持ちの良いリズムで配置されている。ここから、数多くのタナカさんのクリエウイティヴが世に送り出されてきたのだ。

 
 
大きなペインティングが描ける天井の高さと床から天井まである窓 直感的にすごくいいなと思った
 

ここは、住宅街にある建物にしては変わっているでしょう?ここを建てた吉田晃という建築家とちょうど別のプロジェクトで一緒に仕事をしていたんです。そのとき彼から「自分の親戚の家をつくっているから見に来てくれ」と言われて見にきたのがきっかけ。世田谷あたりに住む人は、みんな家族持ちだったりするので、こういった変わったビルには、テナントがあまり入らないらしいんですよね。収納スペースがないとか、子供部屋がないとか、天井はこんなに高い吹き抜けでなくていいから部屋数を増やしてくれとかいう人が多いみたい。でも、見に来てみたら、比較的スタジオというかアトリエ向きなので、僕が入ることにしたんです。まだ工事の途中だったので、自分で少し指示を出して改装しました。扉がたまたま緑色だったので、ほかのところもグリーンを塗っておいてくれとか、収納がないのでつくってほしいとか、奥の仕事場のテーブルや本棚などを備えつけたぐらいかな。あとは、ポーチにテントをつけた。

ここは構造的に地下と1階をぶち抜いてあって、クリエーター向きの建物なのではないかということで、タケウチトシアキさんというカメラマンのスタジオがあったり、設計事務所が真ん中に入っていたりします。最初は知り合いがけっこう多かったんですよ。コンピュータ関係の会社とかタイポディレクターズクラブというタイポグラフィー協会の事務局が隣にいたりしました。僕はずっといるのでもう古株になってしまった。住宅街にぽつんとクリエーター集団が集まってきた。立地よりは、この建物、空間で選んだという感じです。最初は、「そんな田舎には、打合せになんか行かない」とかよく言われましたよ。けっこうみんな来てくれなくて大変だった(笑)。ちょうどバブルとの境目頃かな、印刷所の人からは「うちは原稿を取りに行ったりできないので、バイク便で送ってもらいたいんですよね」とか言われていました。でも景気が悪くなったとたんに「どこへでも行きます」みたいな感じに変わってきたような記憶がある。当時は渋谷や中目黒ぐらいまでが仕事のエリア、そこから先は住宅としてののエリアだった。それで基本的には青山とか渋谷、もっと前の時代の人たちだったら銀座とか、そういう感じでしたからね。いまはみんな来てくれますけれどね。

 
 

この建物を見て、直感的にすごくいいなと思ったのは、天井の高さとこの床から天井まである大きな窓です。その外のポーチには、階段がついてるんです。だから、ここで大きなペインティングが描ける。窓を開けて、ここで絵の具を使ったり、ペインティングしたりすることができて、いちおう上にテントがついているのでテントを下ろせば、簡単に雨風が当たらないような形にもできます。ポーチの右脇が階段になっていて、そこから荷物の出し入れもできる点も便利。単にコンピュータを使ったりする仕事という形だけでなく、ペインティングとか絵の具を使ったりすることもここだったら、比較的しやすいんです。高さがあるのがありがたいですね。
ここが手狭になってしまったので、いまもう一つ借りて、それを改装しています。もう少し気持ちプライベートっぽい部屋の雰囲気というか、企画会議ができそうな感じ。ラウンジっぽい感じです。家具は、自分でつくったものとかも入れているんです。

 
 
そぎ落としたようなデザインは自分の部屋ではやらないなあ
 

インテリア空間を設計したりデザインしたり、いまも美容サロンの室内設計をやったりしています。でも自分の事務所自体は、どっちかというとまだまだ終わりが見えないようなデザインになっているところがある。ここの事務所もたぶんそうだと思う し、いま改装しているところもそうですが、いかにもできてるって感じのデザインやインテリアはやらないようにしている。ミニマムにちゃんとセンスよくやるというの は、したくないんです。それは簡単にできてしまうので……。もうちょっと色っぽかったりとか、もう気持ち変だったり、もう少しかわいくなっていたり、カラーが あったりとか何かしないと、自分としては嫌だな。それもわざとやるのではなくて、それが出ちゃったという感じがいい。

本当にセンスよく、ちゃんと構成するタイプのデザインとかもありだと思います。ところが、自分の中にどこかある種のモダンデザインに対するアンチテーゼみたいな ものがある。ミニマルなものは、けっこうシンプルで大人の仕事という感じがして、それはそれでわかるのだけれど、やはりそれを自分ではやらないというのが、僕個人の信条としてはある。それをやったら最後という感じだと思うんです。自分の中では1950年代ぐらいのものがすごく好きだったり、あとはもうちょっと本当にミニマムに そぎ落としたようなデザインのものも好きですけれど、自分の部屋ではやらないという感じかな?それはある情報とセンスがあれば、誰にでも実現でできるような気が する。オリジナルにクリエイトしているというよりは、どちらかというと「見立て」みたいな感じがするじゃないですか。「いまクリエイティブをしている」というより は、ある種の情報をちゃんと整理するとか、センスよく組み立てていくとかに近くて、見立てという感じだと思うので、そっち方面にはあまり行かないようにしているんです。
いま、カフェとかでけっこうおもしろいものがいっぱいできていて、ああいう仕事はすごくよくわかるけれど、自分のプライベート空間でそれをやってしまうと 自分でやっているのが違う職種のような感じがしてね。

 
 
直感的にピンと来るものがいいよね 椅子なら倉俣史朗の「ミスブランチ」
 

仕事としては、ああいうカフェをつくるというときも結局はオリジナルの部分を何かプラスしていきます。だから、今手がけているサロンも真っ白い空間ですが、ぽこぽこと穴が開いていてその中にいろいろな仕掛けがあったりするものをつくっています。そういうのを開発している感じというのがいいんだよね。やはりそこが一番お金がかかってしまうんだけど、そこが一番おもしろい。

仕事ではなく、知り合いの事務所のインテリアとかを手伝ったりすることもあります。この家具をそろえて、こうやってというのはあるけれど、それは自分ではデザインしているという感覚よりはアドバイスしているという感じです。図面とかをやっている最中にたまたま同席することになって、「どう思いますか?」って聞かれるから、「これはシンプルに1色だけ」とか、横からそんなことを適当に言っていたりします。「家具はどういうところのがいい?」と聞かれると、「目黒のあそこの通りの3軒目ぐらいにそういうのが売っているから」とか言ったりはしますよね。日本だとすごくこだわらないと、できないことが多い。アメリカやヨーロッパだと、そういうアンティークのもののオークションがしっかりあるから、家具もごろごろありますが、日本だと相当マニアックにこだわらないとないんです。それに空間側の問題もあるのではないかという気がします。仕事柄、撮影で家具を借りたりすることも最近は増えているので、そういう家具屋さんにはよく行きますが、難しい。本当にほしいものはなかなか見つからない。ソファーでもなかなかないな。個人的にもほしいなと思って見て回ったり、撮影などで借りたりしたときにいろいろ見て回ったけどね。東京にあるだいたいのお店に行ったけれど、あまりないんですよね。直感的にピンと来るものがいいんだけどな。でも、それがあまりピンと来ない。椅子ならありますけれどね。倉俣史朗さんの作った椅子とかは、ほしかった。「ミスブランチ」というタイトルの花がうまっている透明の椅子です。あれをイッセイさんのところで見たときに、「ああ、ほしいな」と思った。
自分で椅子とかソファも作るんですよ。これもつくりました。あのCDとかを置いてあるものもあそこのグリーンのものもそうで、同じ高さで対になっています。この打合せ机の脚の真ん中はワックスにバラの造花を埋めました。これは別に発表するつもりではなくて、仕事場に机がなかったので作ったんですよ。

 
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アフターショット
アフターショット

ゲストのタナカノリユキ氏 カメラマンの桐島ローランド氏と

■桐島

もっとおもしろい場所、遊ぶ空間をつくってください。もうちょっと大人の感じで……。

■タナカ

いまはカフェぐらいだよね。

■桐島

レストランはけっこういっぱいできたけれど、それプラスアルファがほしいよね。座ってたばこを吸ってうんぬんということよりも、もっと……。

■タナカ

インターラクションがあったほうがいい。知らない人と出会える場があったらおもしろいのだけれど、日本はいま隔離されてしまうから、人は人でそのグループはグループでということでなかなかならない。

■桐島

突然、声をかけるわけにはいかないからね。いまはお店もマニュアル化されてしまっているでしょう?ニューヨークのレストランがおもしろいのは、そのレストランのオーナーが隣に座ってきて話をしたりするんです。店員もみんなノリがいい。「いらっしゃいませ」ではなくて「ヨオ」という感じで迎えてくれて、紹介したい人がいるという感じで紹介してくれたりするそれで知らない人と出会いができて、そこからまた仕事なりプライベートが新しい形で生まれる。レストランがちゃんとそういうサロンなんです。だから、ニューヨークのレストランライフはそれなりの楽しさがある。みんなクラブ感覚で行っているし、音楽もいいのがかかる場所はかかるし、飯がおいしいところはおいしい。

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