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第五回 アーティスト/アートディレクター/映像ディレクター タナカノリユキ氏 LLively Life バックナンバー一覧
「つくる・作りこむ」ということをしない形で作ったユニクロのCMは、自分に違う幅を広げてくれた
Lively Life
タナカノリユキ
part1
part2
part3

高級住宅街に突如現れる突起物のあるコンクリート打ちっぱなしの建物。これが、タナカノリユキさんの仕事場だ。外から見ただけでは、その構造はまったく不明。何件分の部屋が内蔵されているのか、想像もつかない。仕事場は、天井の高い吹き抜けと、床から悠に4メートルはあろうというガラス窓が特徴的な、開放感のある空間だ。その中に、自身の手によるソファや棚が雑然と、それでいて気持ちの良いリズムで配置されている。ここから、数多くのタナカさんのクリエーイティヴが世に送り出されてきたのだ。

 
 
全部自分の好きなことしかやらない どれが仕事か趣味か区別なんてできない
 

基本的には自分の好きなことをやっているから意外にストレスはないんです。好きなこと以外はあまりやりません。それが一番大きいかな。逆に仕事という認識もあまりない。責任感という意味ではちゃんと仕事としての責任意識はもちろんあるし、社会化されるときの責任みたいなものもあると思います。ただ、自分の生活や人生とかと密接に結びついているものだから、あまり仕事という感じでもないんです。自分にとっては絵を描いていたりすることと何かアートディレクションするようなことが一緒になっているのですが、頼まれたから動いているというのではなくて、やっている最中に増えてきたという形です。だから、仕事があったからオフにしようとかいう考え方もあまりないですね。クライアントが介在したときは、自分がおもしろいと思ったものしか受けない。じゃあ、空いた時間はどうするかというといきなり絵を描いていたりするんです。だから、あまりオンもオフもない。空いた時間があると、今度はあれをしてみようかなとか、次のものをつくるかという感じです。
子供のときからそうでした。高校のときはそういうことが少しなくなったかな?大学のときは、どうしたら自分が考えている形でやれるのかと本格的に美術みたいなととをやり出しました。だから、初めからいわゆる仕事という感覚ではなかったんです。
違うプロジェクトや違う表現ジャンルでものを作ることが、いわゆる一般的に言う息抜きになっているんだと思うんです。休もうという感じもありません。時間が空いたから一人で絵を描こうと始めてしまったり、共同作業で映像をやろうかとなれば映像をやっているし、また空いたときにほかのことで思いついたことに手をつけ始めるとか、前々からやりたいことがたまっていたりするんです。
調子が悪くなったら自分で少し休んでという感じで、あまり何も考えていないんです。ビジネスとしても考えていない。南の島でもどこでもいいのですが、寝てぶらぶらしていると3日目ぐらいからものを拾ってきたり写真を撮ったり絵を描いたりしはじめるんです。簡単なものを使って一人でできる創作をやったりします。日記に近いような感じです。そういうことが好きというか、拍車がかかったというのが正直な言い方かな。学生のときはそんなふうに思わなかった。ある時期からすごく楽しくなった。昔はもうちょっと違っていました。学生時代はものをつくったりするよりも、映画やファッションショーや演劇を見たり、何かイベントやクラブに行ったりしていましたね。そういうところ行くほうがおもしろくて、学校は行っていましたがものをつくることはあまり好きじゃないという感じでした。最初のころは、そういう意味では普通だったんじゃないですか。いまはだんだん拍車がかかってきた。その拍車がかかってきたことが、自分にとってはけっこうおもしろいんです。

 
このCMは、ザバッと刺身のようにいいネタをそのまま出したんです
 

ユニクロのCMは、自分の中に違う幅を広げてくれたというところがあると思います。ナイキを僕がアートディレクションするまでは、みんなも僕のやろうとすることをだいたい読めたんじゃないかな。この間、ADC(アートディレクターズクラブ)のパーティのときにこう言われました。「ユニクロのCMをまさかタナカがやっているとは思わなかった」と。ナイキまでは比較的読める、ああいうカッティングエッジなものとか、金がかかっているからそれはわかる、と。

ユニクロはけっこうまじめにちゃんとコミュニケーションするとか、あたりまえのことをあたりまえにやるのだけれど、そのあたりまえの中にいままでなかったクリエーティブみたいなことを見つけていくという意味では、自分の中では大人の仕事なんですよね。だから、すごくオーソドックスにスタンダードにやっているのだけれど、たとえばあのCMなどを見ていても、よく見るといままであまり見たことがない感じがしたりする。音や台詞、ナレーションがない表現とかね。でも、やっているこ とは非常に機能主義的で、「安くていいものをより多くの人に」という思想に基づいた、ある種の本当に無駄なものとか、逆に「つくる・作りこむ」ということをしない 形でやっただけなんです。普通の僕なら、もうちょっと作り込んだりする感じでやるとみんな思っていたのですが、ユニクロの時は、もうちょっとザバッと刺身のように、いいネタをそのまま出すような形にしたんです。そういう意味では自分の幅が広がったんじゃないですかね。
あれを最初からねらうとだめなんですよね。知っている人間がシンプルにやっていくというのと、最初からシンプルにやっていってきれいにおさまるのではちょっと違うんです。「あえてやらなかったところをやってみた」みたいなところも半分はあるんです。正しく本当に機能的な形で一回やってみようか、と。でも、その中にそれだけだとおさまりきらない、ちょっとパワーみたいなこと、いままでなかったようなお楽しみが入ってくるとか、自分の中でやっていてわかるところなんですが。そうしないと、ただまじめなだけだったりとか、すごい機能的なだけだったりしちゃう。

 
 
21世紀のクリエーティブ方法論 それは煮たり焼いたりしないやり方
 

自分の幅が広がったので、周りがディレクションもできるのかという理解で結局、オファーが増えてきたんです。普通は来たものを自分の色に染めてちゃんと返すというやり方なのでしょうが、僕の場合は、どっちかというとディレクションの仕事は来たものの内容や目的を見据えて、どうさばいて出していくかという形になります。そのときに、いままでは僕のほうが自分のものにして出していくやり方をもちろんしていたのですが、どっちかというとその目的に沿って、さばき方で出していくというのが自分の中でいまの時代に合っているのかなと思ったんですよね。
これはこの間、仲條正義さんと話したのだけれど、彼がすごいことを言っていた。「20世紀のクリエーティブ方法論ではないものをちょっとやってみよう」と、それは煮たり焼いたりしないやり方。仲條さんは造形的には力があるし、もともと先輩でもあるからよく飲んだりして話すけれど、この間は「レアなところがいいかな?何もしないというのがいいんじゃない。これがおもしろい」と。だから、いかに何もしないか。20世紀のものはクリエーティブとしては必ず煮たり焼いたり蒸したりしていたと思うのだけれど、ユニクロの場合はいかにそれをしないかということを目標にしたので、それがかえってよかったんじゃないかな。

いままでのクリエーティブの、つくらなければならないみたいな方法論を一回捨てて、いかにつくらないかといったときに、クオリティとしてどのくらいに達するのかという問題は、けっこうおもしろかったんです。
ほかのいろいろなジャンルの人と話すときにも、そのことが一番大きいと思います。「いかにつくらないか」ということを話します。だいたいみんなつくる方向に行くから……。それで結局、頭で考えない方が、タイプがいろいろ出たりして。捨てるものも多かったですけれどね。だから、いままでの制作のやり方とちょっと違います。

魚をさばいて、ただきれいだというだけならどこの店にでもあるのだけれど、それが 本当においしいお寿司屋さんに行くとそうじゃないじゃないですか。どういう魚を選んで、どの時期にどんな仕事をやるのか。ただ、切って出すだけなのだけれど、信じられないぐらいおいしい店がありますものね。それに近いと言ったら変な言い方ですけれど……。そういう意味では、同じようにしていても包丁の研ぎ方一つでどこかが違ってくるとか、そういうことに気を遣っている部分があります。それは見えない世界です。
(構成/文 メディアム 成田恵子)

 
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アフターショット
アフターショット

ゲストのタナカノリユキ氏 カメラマンの桐島ローランド氏と

■桐島

去年、初めてユニクロに行きました。フリースを20枚買った。だって1900円でしょう?クリスマスプレゼントにみんなに配った。

■タナカ

以前は、アウトドアショップで2万円ぐらいしていたのが、それはそのメーカーが粗利を得るものだったりしたのがバレてしまったという感じですよね。

■桐島

ある意味でいいことなのだけれど、ユニクロやGAPは俺たちの仕事からは、とても怖い存在です。だって、俺はとくにファッションに食わせてもらっているから。最近はコピーブランドとかもそうだけれど、すごく勢いが強くなっているからけっこう厳しいね。価値がつかなくなってしまうと結局、ファッションに意味がなくなってしまう。お金を出して買うものではなくなってしまう。

■タナカ

ユニクロはもう部品でいいと思っているから、あとは着るほうが組み合わせしやすいというのが着る人の考え方だね。たとえばタートルやチノとか本当にベーシックなものをユニクロで、それこそかばんはヴィトンにしてしまうとか、みんなそういうふうにして着こなしているんじゃないかなという気がする。

■桐島

いまはそうですね。実際に若い子とかはみんなそうなってきています。若い子が変に服にお金を使うのはおかしいとは思う。だから、それはいいと思うのだけれど……。
日本は大人が遊びに行く場所が少なすぎると思う。要するに、ちゃんとした見栄えで行くところがないから、そういう意味でファッションが盛り上がらないと思う。俺が思うには、みんな仕事のしすぎだ。

■タナカ

レストランとかにしても、別にそういう格好をして行くという形じゃないですよね。だから、日本だとビジネスマンはスーツかカジュアルかどっちかということで、あまりパーティとかサロンとかいう感覚の部分がないからね。京都でそういうのがあったときには和服だよね。そういうのもあるのだけれど、洋服と結びつくと……。あとはいわゆるティピカルな結婚式といった形になってしまうからさ。

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